音も出ず、演奏するさまは、まさに異様な光景。通りすがりの人は首をかしげた。実は、観客も演奏者も音を聞くにはヘッドホンが必要なのだ。
今回の演奏会は、楽器生産世界最大手のヤマハ(静岡県浜松市)が企画した。「絶対ありえない場所で、やりたかった」というのは樋口洋子・国内楽器営業本部企画担当課長。
通常のオーケストラ演奏を店舗の傍(かたわら)で行っては、うるさくて営業にならない。今回、演奏時に音が出ないサイレント楽器を使い、演奏することで「どこでも演奏できる」ということを強調したかったのだ。
今回使われた、このサイレント楽器。音を共鳴する腹部分がないため、音が出ない。この腹部分の変わりにあるのは、樹脂か木製のフレーム。いわば、楽器の骨しかない。
では、一体どうやって音が出ているのか。
開発者の開発担当技師の何木明男さんによると、「弦の振動をブリッジの底部にある内臓マイクが拾って残響効果をつける。これに、電源を入れてヘッドホンで楽しむ仕組み」という。
こうして拾った音は、電気信号で変換されてヘッドホンに送られるため、音は驚くほど鮮明となるほか「超一流の楽器の音が出る」(何木さん)。
今回、ギターを演奏した作曲家の鳥山雄司さんも愛用者のひとり。「周囲の環境や時間を気にせずに思い切り演奏できるので、アイデアを練るのに重宝(ちょうほう)している」という。
このほか、エコーもかけられるため、CDプレーヤーと接続すれば、カラオケの役目も果たすのだ。
この「どこでも演奏できる」といった特徴が最大限に生かせるのが自宅だ。マンションの隣近所や、寝ている家族に迷惑がかかるといった心配がないからだ。
「若いころに演奏経験がありながら、大人になって練習する場所がなくて困っていたという人に喜ばれている」(何木さん)という。
加えて、あまりに下手すぎて練習音を聞かれたくないといった人をも取り込めるため、若葉マークの演奏者にも大人気となっている。
特に、幼いころに音楽を習いたかったというサラリーマンや働く女性などに大好評で、現在、大人のための音楽教室が開かれるほどの大盛況となっている。
ユニークなところでは、東京・丸の内など都心のオフィスに通う女性らが、この機能に目をつけた。バイオリンケースを持って電車にのれば、まさに“育ちのいい女性”風に様変わりできるからだ。
「お稽古(けいこ)ごとをしてますって強調できるからでしょうかね」(何木さん)と笑う。ブームは今後も続きそうだ。(飯田耕司)
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サイレント楽器を使って演奏した「W.A. モーツァルト ディヴェルティメント ニ長調K.136より第1楽章」を聞くことができます。
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音の出ないオーケストラ どこでも演奏、女性に大好評
